1.はじめに
平成18年5月の会社法施行によって多様な種類株式の発行が認められることとなりました。
平成19年3月16日、国税庁は、種類株式のうち、特に中小企業の事業承継等で実質的に活用が想定される3類型の種類株式について、評価方法の明確化を求める中小企業庁の照会に対して文書回答(2月26日付)し、さらに同年4月2日、より具体化したものを資産評価企画官情報第1号「種類株式の評価について(情報)」(3月9日付)として公表しました。
2.国税庁情報の評価方法
国税庁による情報の公表は、平成19年度税制改正に盛り込まれた3類型の種類株式の評価方法について中小企業庁が国税庁に照会する形式で明確にされたもので、その概要は次のとおりです。
(1)配当優先の無議決権株式
原則として、普通株式と同様に評価する。但し、議決権がない点を考慮し、所定の条件を満たす場合は納税者による選択で5%評価減し、減額部分を議決権有りの株式に加算する評価方法を認める。
(2)社債類似株式
所定の条件を満たす場合は、発行価額により評価する。
(3)拒否権付株式
拒否権を考慮せずに普通株式と同様に評価する。
3.利用例
(1) 上記3類型の利用例
国税庁が公表した3類型の利用例としては、次のような方法が考えられます。また、実務において種類株式は、単独で利用するよりも、次のように複数の種類を組み合わせて利用することの方が多いと思われます。
@配当優先の無議決権株式
(剰余金配当株式+議決権制限株式)
主な利用場面としては、
・高配当をインセンティブに資金調達をしたいが、経営には関与して欲しくないとき。
・事業承継において、非承継者に株式を所有してもらうとき
・分散した株式を再度集めるに当たり、高配当をインセンティブにしたいとき
・社員持ち株会を設立あるいは持株会に追加で株式を移管したいとき など
A社債類似株式
(剰余金配当株式+議決権制限株式+取得条項付株式など)
主な利用場面としては、上記@と同様に資金調達における利用、非承継者対策としての利用などが想定されます。しかし、社債のごとく、一定期間後に、発行会社が発行価額で償還し、残余財産分配は発行価額を限度とし、普通株式への転換ができないなどの点が相違します。
B拒否権付株式
(拒否権付株式など)
拒否権付株式は、従来は株主総会で決議できる事項であったものが、定款で定めた一定の事項について当該種類株主総会の決議がないと効力を生じさせないことにできます。
主な利用場面としては、事業承継で2代目に完全承継するつなぎの措置として前オーナーに持たせたり、あるいは、敵対的買収の対抗策としても有効です。但し、当該株式が他者に譲渡される恐れもあるため譲渡制限を組み合わせておくのが賢明です。
(2)その他の種類株式の利用例
上記以外でも、種類株式の利用方法は多々想定されます。
@事業再生における全部取得条項付種類株式
主に事業再生の場面ですが、従来は100%減資をするためには、会社更生手続及び民事再生手続を除き株主全員の同意が必要なので、私的整理手続において減資を行うことは非常に困難でした。しかし、会社法における全部取得条項付種類株式を利用することにより、発行時と取得時の2回の特別決議で全株式の取得(及び100%減資)が可能となりました。この方法によって、スポンサーによる資本注入が円滑に実施できることになりました。
A名義株一掃における全部取得条項付種類株式
全部取得条項付種類株式は、事業再生以外でも名義株式が多数存在し一掃したいときにも同様な手続のもとで利用できます。
B取締役・監査役の選任種類株式
取締役・監査役の選任種類株式は、取締役・監査役の選任を当該種類株式総会によって行うことができ、また、選任だけでなく解任についても決定できます。拒否権付株式と同様にお目付け役が持つことによって、効果的な経営監査が可能になります。また、複数の会社で合弁会社を設立した場合に出資額に応じて役員を派遣したいニーズにも対応できます。
C属人的株式
非公開株式においては、株主ごとに異なる取扱いをなす旨を定款で定めることが可能です。(属人的株式)例えば、株式数によらないで株主1人に1議決権を与えることも、ある者には議決権を持たせある者には持たせないということも可能です。
実際の種類株式の利用に当たっては、税務面、手続面など留意すべき事項が多々あるので、専門家と協議の上実施することが必要です。 |