1. はじめに
平成17年8月3日、中小企業の会計に関する指針(以下、本会計指針という)確定版が公表されました。従来、中小企業庁編、日本税理士会連合会編、日本公認会計士協会編と分かれていた中小企業会計に関する方針が統合化されたものです。
本会計指針策定の目的は、2つあると言われています。
第一は、中小企業の会計の質の向上です。
第二には、平成18年5月施行が予定されている新会社法における会計参与が取締役と共同して計算書類を作成する際の拠りどころとするためです。
本会計指針はその名のとおり、中小企業における会計のスタンダードとなるものです。新会社法における会計参与設置会社が計算書類を作成する際に拠りどころとするだけでなく、すべての中小企業が本会計指針を適用することが推奨されています。
2.中小企業の会計に関する方針の内容
中小企業の会計に関する指針に記載されている主な項目をまとめると、次のとおりです。
本会計指針に掲載されていない項目については、一般に公正妥当とされる会計基準に拠ることになります。
(1)貸倒引当金
金銭債務について、取立不能のおそれがある場合、取立不能見込額を貸倒引当金として計上しなければならないとされました。
但し、法人税法の区分に基づいて算定される貸倒引当金繰越限度額が明らかに取立不能見込額に満たない場合を除き、繰入限度額相当額をもって貸倒引当金とすることができることとされています。
(2)固定資産
固定資産の減価償却は、経営状況により任意に行うことなく、定率法等の方法に従い毎期断続して規則的な償却を行うこととされました。従って、従前、いわゆる税法基準で任意に減価償却を行っていた場合、見直しが必要となります。償却費の計算に際しては、法人税法上の耐用年数を用いて計算した償却限度額を減価償却費とすることが認められます。
なお、注目されていた減損処理については、中小企業に対して厳格な減損処理の適用を求めるのは困難であることから、将来使用の見込みが客観的にないこと、又は、固定資産の用途を転用したが採算が見込めないことのいずれかに該当し、かつ、時価が著しく下落している場合に限り、減損損失を認識することとされました。
(3)ゴルフ会員権
ゴルフ会員権については、中小企業において法人所有形態が比較的多くみられ、総資産に占める割合を考慮し、重要性の観点から減損処理が採用されました。減損処理をした場合には、法人税法上別表調整が必要となります。
具体的には、次の場合に減損処理が必要となります。
★
時価があるゴルフ会員権・・時価が著しく下落したとき
★
時価がないゴルフ会員権・・発行会社の財政状態が著しく悪化したとき
預託保証金方式のゴルフ会員権の減損処理は、原則として次のように行います。
(4)退職給付債務
会社が退職給付制度を採用している場合には、引当金の認識が必要とされました。
この場合、簡便的方法である退職給付に係る期末自己都合要支給額を退職給付債務とする方法を適用でき、退職給付会計基準にある年金数理に基づく債務認識は行わなくても認められます。引当金を計上した場合には、法人税法上別表調整が必要になります。
また、中小企業が退職給付引当金を計上していない場合、一時に処理することは、財政状態及び経営成績に大きな影響を与える可能性が高いため、本会計指針適用に伴い新たな会計処理の採用によって生ずる適用時差異については、通常の会計処理と区分して、10年以内の一定の年数又は従業員の平均残存勤務年数のいずれか短い年数にわたり定額法により費用処理することができるとする経過措置が置かれました。
(5)税効果会計
税効果会計については、一時差異(会計上の簿価と税務上の簿価)の金額に重要性がない場合には、繰延税金資産・負債を計上しないこともできるとされました。
繰延税金資産を計上する場合は、商法上配当制限規定がないため、回収可能性について厳格、かつ、慎重に判断を行い、回収可能性があると認められる金額を計上することとされました。 |